自己破産してもなくならない財産は、どのくらい?
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自己破産をすると、借金の返済義務は無くなりますが、代わりに財産を失ってしまうことになります。ただ、自己破産をした場合でも、すべての財産がなくなるわけではありません。一定額までは、手元に残すことが可能です。それでは、自己破産をしたとき、どこまでの財産を手元に残すことができるのでしょうか?
今回は、自己破産をしてもなくならない財産がどれくらいなのか、弁護士法人YMPの弁護士が解説します。
自己破産をしたときに、財産がなくなる仕組み
一般的に、自己破産をすると、財産が無くなります。それは、破産者の財産が現金化されて、債権者に配当されるためです。
破産手続き開始決定が下りると、破産管財人が選任されます。破産管財人は、破産者から財産を預かり、資産を売却したり、預貯金や生命保険などを解約したりして、どんどん現金化していきます。そして、集めた資金を、最終的に確定した債権者に対し、平等に配当します。そこで、破産をするときには、当初の段階で破産管財人にすべての財産を引き渡さなければなりません。このことにより、破産者の財産が失われてしまいます。
ときには、財産を失うことを嫌い、財産隠しをしてしまう人もいますが、破産手続きにおいて財産隠しをすると、「免責不許可事由」に該当してしまいます。
免責不許可事由があると、免責を受けられなくなり、借金支払い義務を無くしてもらえなくなるので、自己破産をする意味が無くなります。財産隠しは絶対にしてはなりません。
以上により、自己破産をするときには、基本的に財産がなくなることを覚悟しなければなりません。
自己破産をしても、なくならない財産
ただし、自己破産をしても、なくならない財産があります。以下で、その内容をご紹介していきます。
99万円までの現金
まず、99万円までの現金は、債務者による保有が認められています。つまり、現金であれば、99万円まで持ったまま破産することができるということです。その程度のお金は、債務者の生活を維持するために必要と考えられているためです。
自由財産として拡張された財産
次に、自由財産として拡張された財産についても、自己破産をしても失われることがありません。自由財産というのは、破産をしても処分する必要がない財産のことです。基本的に、債務者の生活にとって必要な財産が、自由財産として認められます。
どこまでを自由財産として認めるかについては、裁判所が判断しています。そこで、全国の裁判所は、それぞれ自由財産の拡張基準を定めて運用しています。
たとえば、東京地方裁判所や大阪地方裁判所の場合、現金以外の個別の財産について、20万円までの自由財産拡張を認めています。預貯金や生命保険、車などの個別の財産の評価額が20万円以下であれば、それらの財産を手元に残すことができます。
ただし、自由財産として認められるのは、総額で99万円分までです。ここには、現金も含まれます。現金も含めて、個別の資産の合計が99万円を超えると、その分は手元に残すことができず、破産手続きで没収されてしまうことになります。
差押禁止財産
「差押禁止財産」についても、自己破産をしても失うことがありません。差押禁止財産というのは、債務者の生活に必要なので、法律によって差押えが禁止されている財産です。たとえば、衣類や家具家電、台所用品や畳、食料や燃料、農具や漁具などの仕事に必要な物品、仏像や位牌などの祭祀用の物品、勲章、学校で勉強のために使う用品、義手や義足などの装具などが、差押禁止財産となります。このようなものがなくなると、破産者はたちまち生活に困ってしまうので、自己破産をしても失うことがありません。
破産手続き開始決定後に得た財産
自己破産によって失われるのは、破産手続き開始決定時に債務者が所有していた財産です。そこで、破産手続き開始決定後に得た財産については、基本的になくなることがありません。このような財産のことを「新得財産」と言います。
たとえば、破産手続後に得た給料については、全額が債務者のものとなりますし、破産手続き開始決定後に遺産相続をして多額の財産を得たとしても、破産によって失われることはありません。
以上のように、自己破産をしたからと言って、すべての財産が失われるということはありません。むしろ99万円分の資産を手元に残せるので、「自己破産をしても、財産がまったくなくならない」という方も多いです。
財産がない場合、簡易な同時廃止という手続きになる
財産がないときの選択される同時廃止とは
自己破産をするとき、ある程度の財産があると、管財事件となって、その財産が失われることになります。これに対し、財産がほとんどないケースでは、同時廃止という簡単な破産手続きが選択されます。同時廃止になった場合には、財産はなくなりません。
同時廃止になる基準
同時廃止になる基準についても、各地の裁判所がそれぞれ定めていますが、たとえば東京地方裁判所では、「現金を含めた個別の資産が、20万円を超えるか、また、総資産が99万円を超えるか」により、管財事件と同時廃止事件を振り分けています。そこで、それぞれの財産評価額が20万円以下で、財産の合計額が99万円以下であれば、同時廃止で破産手続きを進めることができて、財産がなくなることがありません。
同時廃止になると、債務者の負担が軽くなる
同時廃止になると、破産管財人も選任されませんし、手続きも非常に簡単です。裁判所での債権者集会が開催されることもないので、破産者が裁判所に通う必要もありません。一回程度、免責審尋のために裁判所に行って、裁判官と面談したら、そのまま免責によって借金をなくしてもらうことができます。
これに対し、管財事件の場合には、最低20万円の「管財予納金」というお金が必要になりますが、同時廃止の場合には、そういったお金も不要です。同時廃止になると、破産者にとって、何かと負担が軽いです。
同時廃止になる割合
全国的に見ると、自己破産をするときには、同時廃止が選択されることが多いです。平成27年度における司法統計によると、全国の裁判所のうち、同時廃止になった件数の割合が65.1%、管財事件になった件数の割合が34.7%です。同時廃止になっている場合、財産が失われていないので、65%以上のケースでは、自己破産をしても財産が失われていないことになります。
自己破産で、なるべく財産を多く維持する方法
以下では、自己破産をするときに、なるべく財産を維持する方法を紹介します。
多くの裁判所では、現金であれば99万円まで所有していてもよく、個別の資産についてはそれより小さい評価額までしか自由財産としての拡張を認めない、という運用をしています。たとえば、東京地裁や大阪地裁では、個別の資産であれば、20万円までしか持っていることができませんが、現金なら99万円まで持っていても良いとされています。
そこで、生命保険や預貯金など、個別の資産を持っているのであれば、現金に換えると、破産をしても持ち続けることができます。生命保険は解約して解約返戻金を受けとると良いですし、預貯金は解約するか出金するかして、現金の形で持っていると良いです。また、こうしたお金から弁護士費用を支払うことも認められるので、弁護士費用に充てるのも、1つの方法です。
ただし、破産直前に現金化した場合、裁判所から問題視されることがあるので、慎重に対応する必要もあります。対応に迷ったときには、弁護士に相談することをお勧めします。
以上のように、自己破産をしても、債務者の手元に残せる財産は、意外とたくさんあると感じた方が多いのではないでしょうか?
自己破産をしたからと言って、すべての財産がなくなって、たちまち生活に困る、ということはありませんし、給料も全額自分のものにすることができます。むしろ、自己破産をすると、給料の強制執行ができなくなるので、安心して生活を送ることが可能となります。
借金返済が苦しいなら、早めに自己破産をすることが得策です。
弁護士法人YMPでも、非常に積極的に債務整理の案件に取り組んでいます。破産しても、なるべく多くの資産を手元に残せるよう、必要な助言・アドバイスをいたします。借金問題でお困りの場合、是非とも当事務所までご相談ください。